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中野さんの研究成果がここに!!



〜 ポリアンチモン酸の合成と反応 〜


 1)序論

 モリブデンやタングステンの金属酸素酸イオンは酸性溶液中で縮合し、[Mo6O19]2- や[W7O24]6-のような金属酸化物クラスターアニオンを生成する。このような化合物はポリ酸イオン、あるいはポリオキソアニオンと呼ばれている1,2)。これらは金属原子に酸素原子が4配位また は6配位したMo4四面体あるいはMo6八面体を基本単位として、それらが頂点や稜を共有して多種多様な構造をとる。そのためこれらの構造は一般に図1に示すような多面体モデルで表わされる。


図1 代表的なポリ酸イオンの多面体モデル (a) [Mo6O19]2-  (b) [BW12O40]5- (c) [CoMo6O24]9-
四面体及び八面体の中心が金属元素、頂点は酸素である。(a)はすべてMoO6八面体で表わされている。(b)ではBO4四面体が4個のW3O13ユニットで囲まれている。またW3O13ユニットはそれぞれ頂点を共有するように結合している。(c)では中心の八面体がCoO6八面体であり、その周りは6個のMoO6八面体によって囲まれている。


 一般に [MmOy]p- で表されるポリ酸イオンをイソポリ酸イオン、 [XxMmOy]q- (xイm)で表されるポリ酸イオンをヘテロポリ酸イオンという。図1では (a) がイソポリ酸イオン、 (b), (c) がヘテロポリ酸イオンである。Mはポリ酸イオンの骨格を成す金属元素であり、モリブデン、タングステン、バナジウムである。Xで表わされるヘテロ原子はこれら以外の元素であり、金属元素
に限らない。これらの組み合わせにより、現在まで数百種類のポリ酸イオンが合成されている。このようなモリブデン、タングステン、バナジウムのポリ酸イオンの化学は分析化学の発展と共にかなり解明されており、現在はその応用研究が盛んである。しかしながら、別の観点から言えば、骨格を形成する元素が3種類に限定されている状況ではポリ酸イオンの今後の発展性には乏しい。そこで私は新しい骨格元素をもつポリ酸イオンの合成を考えた。新しいポリ酸イオンの合成は、ポリ酸イオンの基礎研究として重要であるばかりでなく、ひいてはポリ酸イオンの応用研究の発展にもつながるからである。
 私はそのような元素としてアンチモンに注目した。アンチモン酸は1960年代の研究で酸性溶液中で縮合し4-9)、Sb6O174- やSb12(OH)644- といったイソポリアンチモン酸イオンを形成するという報告がなされている。また同時にこれらを単離する研究も進められたが結局成功しなかった。1970年以降になるとイソポリアンチモン酸の研究に関する報告は全く無い(ヘテロ原子としてアンチモンがふくまれているポリ酸イオンは合成されている3))。すなわち、モリブデン等のポリ酸イオンの化学は急速に発展する一方で、アンチモンのポリ酸イオンの化学の研究は完全に衰退した。そのためポリアンチモン酸の化学の多くは現在でも未解明のままである。つまり、ポリアンチモン酸塩の単離に成功することがこの化学の解明の必要条件であり、ポリ酸イオンの化学の発展のための十分条件である。
 そこで今回の研究では以下のことを主眼に研究を行った。

1)イソポリアンチモン酸塩の合成、及び結晶化条件の確立
2)X線結晶構造解析によるイソポリアンチモン酸イオンの構造の解明
3)イソポリアンチモン酸イオンの溶液内での構造の解明

このような研究によってポリアンチモン酸イオンの化学の解明及びポリ酸イオンの発展の為の基礎を築くことが出来ると考えている。


目次  序論  実験  構造解析及びスペクトル測定結果   ポリアンチモン酸イオンの反応性の研究  
総括  謝辞  参考文献   付表

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