はじめに
日本では21世紀において少子高齢化が一層進展するといわれている。その中で特に地域の若者が減少し過疎化が進むことが懸念されている。そこで地域の活性化の一つの方法として大学の誘致が考えられる。大学の役割としては、文化の中心的役割、教育的役割、労働者の供給的な役割といった人的な効果が主にあげられる。その結果ある程度の地域活性化につながるといえるだろう。そこで本論文において大学の誘致というものがどれだけ経済的に効果があるのかを検証しようと考える。その中で、関西学院大学の経済効果を実際のモデルケースとして推計し、さらに先行研究である、静岡大学、立命館大学の研究との比較をふまえて、大学そのものの経済効果にはどのような特徴があるのかということについて考察していく。そして、経済効果を測定する対象として消費を中心とした需要面での効果のみについて測定し、人材供給といった供給面については考察外とした。その理由として、経済の研究として供給面を数値化、あるいは金額化しなければならないが、必ずしもその効果は数値化できるものではないためである。
本論文では、経済効果測定の方法として、一般的な経済効果測定の研究でも使われている方法である、地域産業連関分析で行うことにした。関西学院大学の経済効果については兵庫県産業連関表(1990年)を使用した。そして結果としては生産誘発効果、所得誘発効果、雇用誘発効果を推計し、その金額の大きさを考察するとともに3大学の経済効果の特徴を比較していくこととする。
T.需要総額の測定
1.地域産業連関分析モデル
本論文では、産業連関表を用いて経済効果の測定を行っている。産業連関表は、一国内の生産活動による連結関係を支出側から需要構成、分配側からは所得形成という形で国民経済の構造を表したものである。この構造の中で生産活動の波及の形をみていく方法が産業連関分析である。その中で産業連関表を使ったモデルの一つで一地域に限定して分析する方法である地域産業連関分析を使って経済効果を推計した。地域産業連関モデルにおいて、需要と供給のバランスは【式1.1】のとおりである。
U+F+E=X+M 【式1.1】
U:中間需要 X:各産業の産出額 F:最終需要(移輸出除く)
E:移輸出 M:移輸入
このバランス式からAを投入係数行列()とすると【式1.2】となる。
AX+F+E=X+M 【式1.2】
そして地域連関モデルのため各地域からの移輸入というものを考慮する必要がある。すなわちすべての生産品が地域内で生産されたわけではないので他の地域で生産されたものをのぞく必要があるため移輸入を【式1.3】のように定義する。
より
【式1.3】
式1.2、式1.3を考慮すると式1.1は式1.4のようになる。
【式1.4】
この式をXについて書き換えると次式のようになりこれが計測モデルの基本形となる。
【式1.5】
そしてこのうちの最終需要Fの増加分に対するXの増加分を測定するのであるから凾eについてのみ考慮する。
【式1.6】
式1.6は移輸出をのぞく最終需要Fが増加した場合の他地域への漏れであるMを考慮した結果、この地域内にどれだけの産出の増加を誘発するかというものを表している式である。しかし、産出の増加の結果、各産業において従業者は賃金を得てそれを消費に回し、産業においては営業余剰を設備投資へと資金が流れていくだろう。すなわち消費→生産増加→賃金→消費→生産増加…といったサイクルで生産を誘発していくことになるのである。ここでは、賃金による消費誘発のみを考慮していくことにする。このサイクルは、やがて金額が0に向かって収縮して行くわけだがここでは3次までの効果のみを測定する。
消費誘発を考えるうえでの所得に対する消費の増加は「家計調査年報平成10年」の年間収入階級別1世帯当たりの年間平均1か月間の収入と支出(勤労者世帯)の平均消費性向である71.3%を使用した。また労働者の賃金については、各産業における生産における雇用者所得に割合より導出した。
【式1.7】
C:消費係数(列ベクトル)。民間消費支出の各産業への支出の割合。
W:産業別の雇用者所得/県内生産額(行ベクトル)。
r:平均消費性向
この【式1.7】が消費需要への波及効果を組み込んだモデルである。また上述したように、この式を続けていけば究極的な波及効果を測定できるわけだがここでは、地域産業連関分析ということなので、分析対象からは省くこととする。理由は3章で述べることとする。
2.需要データの測定
この節では、関西学院大学に関する支出のうち、どれだけが兵庫県内で支出されているかを推計する。大学という機関の支出は主に、学生の消費支出、職員の消費支出、大学の財政支出に分類されるため、それぞれで金額を算出していく。
i 学生消費支出の推計
学生の兵庫県内での消費支出を算出するため、学生数及び、一人当たりの消費支出の推計を行った。そして、次にどれだけの学生が兵庫県内に在籍しているか、あるいはどれだけの割合を兵庫県内で支出しているかといったことを推計していった。
そこでまず学生を類別化した。ここでは学生を自宅生、自宅外生にわけそしてそのうちどれだけの人数が県内在住か、県外在住かということを類別した。「関西学院大学白書 1997第2分冊」によると関西学院の学生総数は16,511人(但し、総合政策学部だけは4年分に換算して合計した)となっている。また、自宅生は66.85%自宅外生は33.15%という割合であった。(表1.1)注1そしてそのうちどれだけの学生が兵庫県内に在籍しているかを算出するため、「西宮市の人口−平成7年度国勢調査結果報告書 その2」より、関西学院が所在する西宮の通学人口の割合を推計した。それによると県内よりの通学者割合は70.4%県外からの通学者は29.6%となった。(表1.2)また、自宅外生はみな兵庫県内で下宿あるいは寮に入っていると仮定した。それらを集計したものが表1.3となっている。すなわち、県内在住者は13,245人県外在住者は3,266人となった。
次に学生の消費支出額を推計していくこととする。そこでまず支出構造にいくつかの仮定を置く。この仮定は「地域における大学の経済効果/関西経済の活性化と計量分析」の際の分析に使われていたものと同じ仮定を置くこととした。本論文においては、兵庫県内の自宅生はすべての消費支出を兵庫県内で支出する。兵庫県内の自宅外生は10ヶ月分を兵庫県内で2ヶ月分を地元で支出すると考える。兵庫県外の学生は80%を兵庫県で支出し残りを自宅のある府県で支出するという仮定である。消費支出は、「‘95関学生はいま……」より求め、1ヶ月の平均支出は以下の通りである。(表1.4)そしてこれらの表をあわせ、1年間の学生の類型別地域別消費支出を表したのが表1.5である。
以上の学生の消費支出がどれだけ各産業に需要を生み出すのかを求めるため、各消費支出の産業連関表へのコンバートが必要となる。一般の家庭であれば産業連関表の産業別民間消費支出データを利用できるが学生の消費支出構造は特別であると考え、学生類型ごとにコンバートしていくことにした。(表1.6)注2
上記コンバートの割合と先ほどの学生の消費支出であるを掛け合わして算出したものが、学生類型別支出額である。(表1.13)この支出額が学生の消費支出のうち兵庫県の各産業に与える需要額となる。
ii 教職員の消費支出の推計
次に、教職員の消費支出について推計する。そこでまず教職員に収入について算出することにする。各人の給与収入を導出することは不可能なので総額から消費額を導出することにした。まず教職員の人数を算出する。教職員の人数は専任教員406人、非専任教員937人注3であり、また、職員の数は263人であった。注4ただし、このうち職員については大学院生の教務補佐や教学補佐といったものが含まれておらず正規の職員の人数だけということになっている。また同様に大学生協の職員について調べてみると専従職員33人、パート・アルバイトetcは197人となった。注5そして、これらの教職員のうちどれだけの人数が県内に在住し県外に在住しているかを算出したいわけだが、本来は教職員名簿を元に個別調査し推計するのが最善であったが教職員名簿を利用することができなかったため、学生の場合と同様に「西宮市の人口−平成7年度国勢調査結果報告書 その2」より、労働人口のうち県内在住者の流入割合と県外在住の流入割合を算出(表1.7)し、そこから推計した。(表1.8)
つぎに教職員の人件費であるがこれは、1998年度決算報告書より、「資金収支決算書の支出の部」より人件費支出を教職員の支出とした。また大学生協の職員の給与についても同様に「関西学院大学生活協同組合財務報告書」の部門別経費明細表より人件費合計の部分を人件費支出とした。(表1.9)そしてこうして求められた収入のうちどれだけが支出にまわり、そしてどれだけが兵庫県内で支出されているかについて算出する。まず収入に対する消費の割合だがこれは、前述した「家計調査年報平成10年」の年間収入階級別1世帯当たりの年間平均1か月間の収入と支出(勤労者世帯)の平均消費性向である71.3%を使用した。そして兵庫県にどれだけ支出されているかであるが、まず兵庫県在住の教職員については100%を兵庫県で支出するものとし、兵庫県外在住の人は地元での支出が多いと考え、10%のみを兵庫県内で支出すると仮定した。そうして出された金額の合計が約84億円となっている。(表1.10)そしてこの金額を学生の場合と同様に各産業に対してどれだけの需要になっているかをはかるためにコンバートする必要がある。ここでは、産業連関表の民間消費支出の各産業別割合の項目を家計の一般的な消費と考え、教職員支出の産業別年間支出額を算出した。(表1.13)
iii 大学の財政支出
大学の財政支出であるが、この中には当然人件費も含まれるため人件費をのぞいた部分が財政支出となる。ここでは、人件費の場合と同様に大学の場合、1998年度決算報告書の「資金収支決算書の支出の部」より人件費とその他借入金利息支払等の項目をのぞく部分を大学の財政支出の金額とした。そのうち建設目的に使われた費用を建設的経費としてとりあつかい、その他の部分を経常経費として計上した。建設的経費は土地支出、建物支出などをあわせて計15.6億円、経常経費は教育研究経費支出、管理経費支出などをあわせて57.4億円であった。そして、大学生協の方の支出であるがこれも、人件費の場合と同様に「関西学院大学生活協同組合財務報告書」の部門別経費明細表より物件費、分担費をあわしたものを大学生協の財政支出の金額とした。(表1.11)そしてその金額はすべて経常経費として取り扱うこととする。関西学院の財政支出、大学生協の財政支出ともに県内及び県外の支出割合がわからないため、ここではすべて県内で消費するものと仮定することとした。次にこれらの消費がどの産業にどれだけ需要をもたらしているかを考える。建設的経費については、県内総固定資本形成の産業項目比で按分し、大学の経常経費については「教育」の項目の中間財投入係数比率で按分し、大学生協の経常経費については「その他公共サービス」の中間財投入係数比率で按分して金額を算出した。(表1.13)このように関西学院大学による兵庫県内への総支出が表1.12となりこの金額が、関西学院大学の経済効果をはかるうえでの最終需要であるFとなる。
U経済効果の測定
1.生産誘発効果
前章で明らかにしたように関西学院大学の県内への需要は、学生関係79億円、教職員関係84億円、大学関係が80億円となり、合計が232億円である。この金額がどれだけ生産誘発効果をもたらすのかをこの節では推計する。推計方法は前章1節で作成したモデルである【式1.7】を使用する。兵庫県内での生産誘発効果は367億円となっている。(表2.1)このモデルでは3次効果までを測定したもので、これを究極まで推計すると、376億円となる。このように地域産業連関分析では、自給率の問題から3次効果までによって生産誘発効果をほぼ捕捉できていると考えられる。生産誘発率、すなわち誘発効果にしめる総需要金額は1.51倍となった。この誘発率は、比較的高いものといえるのではないだろうか。次に367億円がどれぐらいの金額であるかを考察する。兵庫県の県内総生産は、20兆9800億円である。(表2.2)注6それに占める割合として0.175%となっている。この割合は予想していたよりもはるかに高いもので、関西学院大学の規模などを考慮してみると非常に大きな数値となっている。もちろん兵庫県の経済に対する影響というものは必ずしも大きいものとは言い難いが、決して少ないものではなく、関西学院があるか、ないかということを考慮すると大きいものであると考えられる。
つぎに、生産誘発額の部門別構成を考えてみる。トップ20を表したものが(表2.3)である。これによると最も多いのが小売の8.85%で住宅賃貸料、食料品、飲食店と続く。これによると、生産誘発率上位20部門において、そのうち15部門が第3次産業となっていることからもわかるように、第3次産業への割合が非常に大きいものとなっている。また最終需要の構成比で見ても第3次産業への比率が非常に高いものとなっており、その誘発効果が第3次産業へ高くなるのは当然といえる結果であろう。
2.所得誘発効果
次に所得誘発効果を測定する。所得誘発とは、関西学院大学に関連する様々な支出によって誘発される所得である。所得とは雇用者所得と、営業余剰の合計となっている。誘発所得の総額は前節で計算した、生産誘発効果の産業別合計に所得誘発係数をかけることによって算出した。それによると所得誘発額は、158億円となる。(表2.1)さらに、この金額に大学の教職員の所得を足しあわせると関西学院による所得総額は240億円となる。次に兵庫県の所得総額を見てみると15兆7346億円で、この金額に対する関西学院の所得誘発の割合は0.152%となった。この金額は生産誘発額の占める割合と比べると小さなものとなっている。
次に所得誘発効果の場合も産業別の構成比を見ていく。トップ20に関しては、(表2.3)に示している。この場合でもやはり小売が1番の12.23%となり、それについで飲食店、その他個人サービス、娯楽サービスと続く。生産誘発効果の場合と同様にこちらも上位20部門のうち15部門が第3次産業であり第3次産業への割合が高く、特にサービス業の占める割合が非常に高くなっているのが特徴といえる。特に小売業への所得誘発は10%を越えており非常に大きな効果があがっている。
3.雇用誘発効果
次に雇用誘発効果について測定する。雇用誘発効果とは前節の所得誘発の場合と同様に関西学院大学関連の支出によってどれだけの産業の雇用を創出するかというものを測定する。算出の手順も前節の場合と同様に各産業の生産誘発額に雇用誘発係数をかけて算出する。雇用誘発係数は94部門のものが見つからなかったため、34部門の就業者係数表を94部門にあてはめて推計した。注7それによると雇用誘発効果の人数は3096人である。(表2.1)これに関西学院関連の雇用者の人数899人を加えると3945人となる。この人数を兵庫県の雇用者数と比較する。兵庫県の雇用者数は249万人となっている。それに占める割合は0.160%となる。この数値も生産誘発の割合と比べれば少ない割合だが、現在のように失業問題が大きな問題となっている時において0.160%の雇用を創出しているというとかなり大きなものであると考えられる。そしてもし、雇用者誘発がすべて西宮市で発生した場合、西宮市における関西学院大学の雇用割合は2.59%となる。こうするとかなりの人数が関西学院の恩恵を受けているといえる。また関西学院の職員だけで見ても西宮市の全従業者数の割合で見てみると0.59%となるわけでかなりの割合を占めていると考えられる。
次に雇用誘発効果も各産業別の割合を考えてみる。トップ20に関してはここでも表2.3に表されている。ここでも小売が一番で16.4%を占め、次いで住宅賃貸料、その他個人サービスとなっている。ここでも同様に上位20部門のうち14部門が第3次産業であり、その占める割合が高いものとなっている。これは当然ながら生産誘発の割合で計算しているので、このような結果となったといえる。所得誘発効果の場合と同様に、小売の割合が16.4%と非常に高い割合となっており、消費の役割としての大学の効果が顕著に現れているといえるだろう。
このように、生産誘発効果、所得誘発効果、雇用誘発効果を見てきたがここでわかるのは、関西学院大学は、おおむね第3次産業に対する影響が大きい機関であるといえる。表2.1また、表2.3を見てもわかるようにやはり、小売に対する生産誘発効果が大きいと言える。特に小売業は地域密着したものが多く、消費機関としての役割が非常に大きいといえる。
V.先行事例との経済効果の比較
この章では、大学の経済効果について書かれた先行研究との比較をしていく。一般的な経済効果の分析と違い大学の経済効果について研究された事例は少ない。その数少ない事例である静岡大学に関するものと、立命館大学に関するものとを比較していくこととする。
1.静岡大学の事例
次に静岡大学の事例を考えてみる。静岡大学の研究は、「静岡大学 法経研究39巻3号」にのせられている。この研究では静岡大学をモデルにとって立命館の研究や本論文と同じように生産誘発効果、所得誘発効果、雇用誘発効果について推計したものである。この研究の本論文との関係の中での特徴として@家計部門内生化モデルであること、とくに誘発された生産にともなう所得の増加によって生み出される消費の増加というものを究極的な形まで推計していることA各主体の消費がすべて静岡県内で支出されていると想定していることがあげられる。消費がすべて静岡県内で支出されているという想定は静岡大学の地域的特性を考えると非常に妥当性があるが兵庫県に立地する関西学院大学にはあてはまらないと考えられる。立命館大学の研究でも、「静岡大学についての推計においては妥当であるとしても、一般性を持ちにくいと思われること」注9とある。また本論文と類似する点として@学生の消費形態について独自性をふまえていることA移輸入による波及の漏れを正確に推計していることがあげられる。この中で特に注目すべき点として、家計内生化モデルによって消費の増加を究極的な形まで推計している点がいえる。このように推計することによって、大学の存在が究極的にどれだけ経済効果があるのかを正確に推計できることとなる。しかし、2章でも述べたように、地域産業連関分析においては移輸入の割合が非常に高くなっているため3次効果まで推計することによってほぼ捕捉できるといえるため本論文では、3次効果までのみを算出した。
次に静岡大学の経済効果について見ていくこととする。まず、静岡大学の規模についてみてみる。表3.1のように、学生数は9211人、教職員数は1230人となっている。次に最終需要であるが、学生の支出は140億円、教職員の支出は56億円、大学関係の支出は35億円で、総合計は231億円であった。(表3.2)この支出による生産誘発効果は236億円、所得誘発効果は102億円、雇用誘発効果は2475人となっている。(表3.3)また生産誘発率は1.02倍となっている。非常に低い生産誘発率となっているのは静岡県の低い自給率が特徴としてあげられる。
2.立命館大学の事例
立命館大学の事例は1996年に発行された立命館地域研究で「地域における大学の経済効果/関西経済の活性化と計量分析」の中の一つの特集として京都の大学の経済効果を測定している。この研究は1988年の同大学の先行研究を元に精度を上げ改善されたものとなっている。この研究においては、立命館大学のみについて推計したものでなく、京都府にある全大学の京都市への経済効果を測定したものであるため、その中で立命館大学の効果であろうと考えられる分を集計して比較することにした。本論文との関係において、この研究の特徴として@「京都市地域と地域外(府下及び他府県)の相互波及効果、とりわけ京都市経済を対象とする場合に無視できないところの、京都市以外の地域での支出の京都市域経済への波及効果を取り上げ」注8ていること、A消費誘発モデルについてカルドア型の消費関数を推定して限界消費性向を求めて使っていることB大学の供給面での経済効果についても考察していること等があげられる。また本論文において参考にした点であり、類似した点として@各産業で誘発される所得の増加によって生み出される2次効果等を考慮していることA学生の消費形態の独自性を捉えていることB移輸入による波及の漏れを考慮していることC最初の需要の直接支出の県内支出分をきちんと考慮していること等があげられる。
次に立命館大学の経済効果の推計について見ていく。立命館大学の最終需要は本論文と同じで学生の消費支出、教職員の消費支出、大学の財政支出の三点に分けられて推計されている。まず大学の規模を見てみると表3.1のとおりである。学生数は21,240人、教職員は760人となっている。つぎに総需要である支出について見てみる。(表3.2)まず、学生の支出額は99億円、教職員の支出は67億円、大学の財政支出は53億円で総計が219億円となっている。この支出による経済効果は生産誘発効果が359億円、所得誘発効果が157億円、雇用効果が2829人となっている。(表.3.3)関西学院大学の経済効果の場合と同様に生産誘発率を考えると、1.64倍となり、そして京都市の全産出額に占める割合は約0.34%となる。所得誘発効果に職員給与を足したものの京都市民所得に占める割合は0.56%となる。そして雇用誘発効果に教職員の人数を足したものの占める割合は0.45%となった。(表3.3)
3.3大学の比較
ここでは、関西学院大学の場合の経済効果と比較してみる。金額そのもので比較しては大学の規模が違うので何も意味がない。そこで学生一人当たりの経済効果によって比較していく。(表3.3)生産誘発効果であるが関西学院が218万円、静岡大学が257万円、立命館大学が169万円となった。これだけ見ると静岡大学の誘発の効果が一番大きくなると考えられる。しかしこの誘発額の数値は前節でも書いたとおり関西学院大学は3次効果まで算出し、静岡大学が究極効果まで、立命館大学が2次効果まで算出しているため、必ずしもその数値が比較する上で正しいとは言い難い。また最終需要の数値においても学生の一人当たりの消費支出の金額が明らかに静岡大学の場合が他大学の場合と比べ過大になっていると言える。そこで次に、生産誘発率で比較してみる。生産誘発率は関西学院大学が1.51倍、静岡大学が1.02倍、立命館大学が1.64倍となっている。これによると立命館大学の生産誘発率が非常に高いといえる。この生産誘発率は自給率に大きく依存しているがその中で、2次効果までのみを推計しただけの立命館大学のこの割合は非常に高いものとなっているといえる。それに対し静岡大学のそれは究極まで推計しているにもかかわらず1.02倍と低いものとなっている。これは2節でも書いたように静岡の自給率の低さがあげられるといえる。関西学院大学のそれは効果としては低いものではないが、立命館大学ほど高いものではないといえる。
次に雇用効果について見てみる。学生一人当たりの雇用効果は関西学院大学が0.184人、静岡大学が0.269人、立命館大学が0.133人となっている。この雇用効果は生産誘発を元に推計するため静岡大学の割合が高いものとなっている。理由は生産誘発率のものと同じで最終需要の過大な推計が原因といえる。そこで人数で単純に比較すると関西学院大学が非常に大きなものとなっている。それは、就業率の高いものに非常に大きく生産誘発をもたらしているためといえる。すなわち、生産誘発額の部門別構成比でみるとわかる。(表2.3)
次に、所得誘発効果についてみてみる。学生一人当たりの所得誘発効果は関西学院大学が94万円、静岡大学が111万円、立命館大学が74万円である。これも同様に生産誘発額に影響されるため、静岡大学が一番高く立命館大学が非常に低いものとなっている。理由は前述の通りである。そこで所得誘発率で比較すると関西学院大学は0.652、静岡大学は0.443,立命館大学が0.715となる。これによると立命館大学が一番高くなる。
総括すると、この3大学を比較しておおむね生産誘発額は、学生数に比例しているように考えられる。これは、大学という機関の生産誘発効果は、どこの地域においても同じようになるということを表している。もちろん地域産業連関表においては自給率の問題が生産誘発率に大きな影響をもたらすのは確かである。しかし生産誘発額の部門別構成比を見てもわかるように(表3.5)3次産業に大きな誘発効果がある。ただし、静岡大学の効果については再三述べているように学生数に対して学生の消費額が過大になっているため必ずしも当てはまらないが、大学の特徴としては消費機関であるということがあげられるためであろう。次に、所得誘発効果においても、生産誘発効果と同様に学生数に比例していると考えられる。なぜなら生産誘発効果に影響されるためである。ただし、所得誘発額は各産業の雇用者所得と、営業余剰の割合が影響しているため、生産誘発額の部門別構成比が同じであれば所得誘発の割合も同じとなる。次に雇用効果についてみてみる。雇用効果も生産誘発効果に影響され、これに雇用誘発係数が影響される。雇用誘発効果は立命館大学が低くなっているため必ずしも学生数には比例していないといえる。そして経済効果の3大学の効果の比較をグラフ化したものが図3.1である。この図に学生数の比較を加えたものが図3.2である。これを見てもわかるように学生数と経済効果が比例的になっているのがわかる。
むすび
大学の経済効果について考察してきたが、まず本論文の目的ともいえる大学という機関の経済効果が一体どのようにあるのかを比較するという点に重点を置いてきた。そのため、ある点において既存研究と比べて特色が非常に薄くなってしまうという危険性があった。そこで特に注意したことが、最終需要の算出の仕方である。つまり、経済効果を測定する上で最も重要な点が最終需要の算出だからである。学生数や、教職員数はほぼ正確な数値を捕捉し、また教職員収入、大学財政支出等も、決算報告書を元に算出しているため、ほぼ正確な数値といえる。それに対し学生の消費支出については非常に曖昧な点が多い。関西学院大学が発行している学生生活実態調査を元に算出しているが、これはアンケート方式のため標本の精度という点も問題であるし、またアンケート項目にない支出ということに関しては全く捕捉できていない。そのため過小推計になっていると考えられる。そして次に問題となった点は、どれだけ兵庫県において支出されるかの算出である。関西学院の立地の関係上、大阪・梅田方面に多くの消費があると考えられるが、本論文ではこれに関しては立命館大学の先行研究を元に算出した。そのため兵庫県への支出がやや過大になっているといえる。学生や教職員の兵庫県在住の割合等を推計する上でも学生名簿や教職員名簿が手に入れば実数の集計ができたが、入手できなかったため粗い集計と結局なってしまったといえる。また立命館大学の研究であるように他地域に発生した生産誘発の兵庫県内への波及ということについては、地域産業連関モデルを使用できなかったため、過小に推計されているといえる。
次に本論文の主目的ともいえる大学の経済効果の特徴というものについて考えてみる。3大学を比較してわかったように非常に類似的な特徴がある。すなわち先行研究でもあるように経済効果や、雇用効果の波及のほとんどが第3次産業に及ぶことがあげられる。このことは地域の商業や、サービス業を中心に非常に大きな経済効果を持つという特徴があげられる。またこういった特徴は大学という機関が生産主体でなく消費主体としての意味合いが大きいことを表している。そして大学の経済効果は規模に比例していくという結果が得られた。3章で見たように大学の規模というものは学生数に比例している。もちろん土地や、資金などの大きさの違いもあるだろう。学生が増えれば大学の資金も増え、土地も広がっていくと考えられる。そのため学生数によってほぼ同じような特徴があるといえる。また、これだけでなく実際の大学の経済効果には学生の労働者としての供給面での役割があげられる。就職を通しての役割だけでなくアルバイトを通しての労働者としての役割も実際には大きいだろう。しかし本論文では、供給面については取り上げなかった。
注2 コンバーターは 「静岡大学法経研究39巻3号 大学の地域経済効果
の計測」で使用されたコンバーターを参考に独自に製作
注3 関西学院大学 1997年「関西学院大学白書 1997第2分冊」
P301
注4 1999年のデータを使用
注6 兵庫県生活文化部統計課 1999年「平成9年 兵庫県統計書」
P368より
注8 同上書 P108より引用